いろいろな巡り合わせで再び走ることに

初めての鈴鹿フルコースは午後から雨。当時の写真は驚くほど少なくて残念＝３月２０日、鈴鹿サーキットにて

　2003年冬、「そこにチャンスがあったから」、鈴鹿サーキットのFJ1600で走ろうと思った。ただの車好きではまず、たどり着けないであろうフォーミュラードライバーへの道がすぐそこにあり、仕事の都合上、2004年シーズンであれば走ることができそうだったので、あまり深く考えずに車を買って走り出した。そこら辺の経緯はこんなサイトを作って紹介していたので、興味と暇があるなら見てほしい。

　僕は今の仕事にけっこう満足しているのであって、ドライバーとして生きていく必要も覚悟もなかった。それに、走りについて突き詰めて考えることをしたこともなかった。そんな人間が、突然、FJ1600という本格的なカテゴリーで走ったことが正解だったかどうかは、今から考えたら疑問に残るところ。だが、間違いなく本物のレースであったし、普通に車好きであっただけなら、絶対走ることができなかったカテゴリーで２戦を戦った。結果は、ほとんど最下位で、抜きつ抜かれつのレーシングをするまでには行かなかったけれど、「本物」とは何かを肌で感じ、そこに身を置かなければわからないさまざまな経験を積むことができたと思う。「速くなったか？」と言われれば、ほとんど変わらなかったのだろうけれど、まったく後悔はしてない。

　当時のことを知っている人ならば、ある日突然、ぷっつりと活動停止し、どうしたんだろうといぶかしくに思ったに違いない。そんな疑問を持つ少数の人のために簡単に書いておくと、初めて鈴鹿西コースを走ったその日、家庭的な問題が発生。４枠の走行を終えて、後片付けもそこそこに名古屋市内の病院に駆けつけた。その後、４月に大クラッシュで車がばらばらになり、５月のレースのコストと修理の支払いをレース屋さんにしたら、手元に残ったのは指輪代だけだった。

　とてもまたお金をためてレースを続ける状況になかったので、中途半端でとっても悔しかったけれど走りを断念。「ガレージ雅」も一度、ネットから削除し、レースモードから、人生節目イベントモードに切り替わり、全精力（資金もね）をそちらに注いでいるうち、異動を迎える。休みだろうが呼び出される生活に戻ってしまったわけで、職場環境的にも本格的にレースをする状況ではなくなった。

　「もう絶対サーキットでなんか走らねえ」と半ば逆ギレ的に心に誓っていたのだが、頭の中ではいつも鈴鹿の難カーブを攻めている自分が。走らない変わりに、ビデオなんかを見てイメージだけの世界でどうやったら速く走れるのかを考えていた。第一、お小遣いが月々３万円だったので、車遊びなんて、絶対無理だったのである。大好きなロードスターですら車検切れで放置。

　鈴鹿を離れ、敗残兵的な車生活（幸い、社会的な生活はきちんと送れていました）を送っていたのだが、去年夏から今年にかけてごたごたあり、家庭を築くために車生活から離れたのに、なぜか家庭自体がなくなっちゃった、という意味が分からない状況に。呆然としていたことし５月、あるロードスター乗りからもらったメールで、そこら辺の経緯をぼかしているのがすっきりしないと指摘され（このサイトを読んでいる人であればわかるだろうけれど、ネットの特性を考えて、プライベートに直結する情報は、あえてぼかして書いている）、あれこれやりとりをしているうちに、ふつふつとまたわき上がってくるものがあった。

　思い立ったら早く、速攻で鈴鹿を離れて以来、音信不通だったDさんに連絡し、６月３日には鈴鹿のパドックにいた。実は、こっそり車だけは鈴鹿のガレージに置いてあったのだが、なぜか行方不明になっているという摩訶不思議な現象に巻き込まれていて、もう走る車がないことを知る（２年も放置する方が悪いか）。ちょっぴりがっかりしたが、そのときの話では、スーパーFJに移行するのに伴い、FJ1600の中古車両が50万円ぐらいで買えるということを知る。

　そんな低コストでできるなら、これは参戦するしかない！　とここ数年で増加していた体重を絞ることに。筋トレも始めた。

　４キロぐらい減量した６月末、前の職場でお世話になった人が退職するというので、名古屋市中区の本社に向かう。あいさつが終わり、ついでに自分の職場ではナンバーツーの重役にも声をかける。

　この人は、ビートルズバンドのリーダーでギタリスト。２００２年夏、僕が名古屋の本社へ異動したばかりのとき、僕のパソコンの壁紙がビートルズのジャケットで飾られているのを目ざとく見つけ、こっそりと僕を練習に誘い出した。ボーカルが海外出張だったので、「当て馬として歌え」と。けっこうマニアックに歌えて（うまくないけど）重宝なことが分かり、僕はバンドの練習やライブに出入りするように。なぜか、リーダーが直属の上司になったこともあるが、そのときも人間関係的には上司部下ではなく、一緒に仕事さぼって、ライブ会場に行ったこともあるぐらいで、バンド仲間ってな感じであった。

　そんなつきあいだから、僕がロードスターで狂ったように遊んでいることも、富山に通っていることもよくご存じ。さらに言えば、このバンドの縁があって、人生節目イベントにもつながり、スピーチもしてもらったという、半ば「腐れ縁」的な存在の人である。

　ごたごたあったから、心配しているんだろうと、顔を見せに行ったつもりだったのだが、信じられない第一声。

　リーダー「富山で走ってくるか？」

　僕「は？」

　６月末といえば、我が社的には８月１日付大規模人事異動の大詰め時期。リーダーは人事担当の要職を務めていて、ちょうど最後の詰めのところで頭を悩ませていたらしい。

　富山といえば、我が社的にはすっごく勢力が弱く、初任地ならともかく、中堅的な社員が異動を命ぜられたら「とばされた」「左遷された」と思いかねない微妙な場所。会社的にはそんな思いはまったくないんだろうけれど。しっぽ振って喜んで富山に行く中堅社員、と言ったら僕ぐらいしかいないんじゃないだろうか。

　僕「行けと言うなら行きますけれど…」（頭をフル回転させ鈴鹿と富山を天秤にかける）

　リーダー「でも、あそこは暇だからな。ま、本社に呼んでもいんだけどな」

　僕「同期の中では若い方だし、一回本社も経験しているんで、もう１回地方に行っても別にいいですよ」（天秤が富山に傾いた）

　リーダー「そっか〜。お前まだ県庁所在地は行ったことないしな」

　僕「まだ今の場所で２年４カ月だし、異動はまだでしょう」（茶化してみる）

　リーダー「分からんぞ」（だって俺が人事握ってるんだもん）

　僕「まだやり残したこともあるしなあ」（こりゃあ、富山だなあ）

　リーダー「今の会話は忘れるように」（懸案が一つ片付いた♪）

　７月１日の耐久レース第２戦では富山の仲間に「富山に異動になるカモ？」と冗談で言っていたのだが、異動内示日に一宮の上司から不吉な電話。案の定「異動の内示です」と。ちょうど家族旅行の最中で、「富山に行きます」とみんなに報告できたのは良いタイミングだった。

　たぶん、６月末に本社に行かなければ、僕はまだ愛知にいた。鈴鹿以来、漫画みたいな3年間を送り、さらに漫画みたいな人事異動で、富山へ。「走ってくるか？」と言われて富山に来たのだから、もちろん全力で走るのである。富山に来て、まずベース車両探しを始めた。

　再び、車三昧の生活に戻った。人生って、本当に「ご縁」で成り立っていると実感する今日この頃なのだ。