何も不足はないのに…

　僕のB6エンジンは、今現在(2002年7月)、本体はまったくのノーマル。吸排気の変更と軽量フライホイール、ビッグスロットルにROMチューンだけの状態。他のノーマルB6と比べてはじめて分かったのだが、これだけでびっくりするぐらい高回転が回る。サーキットで２速までなら8000回転まで使えるのだ。ファイナルがNA6CEの4.3からNA8Cの4.1になっているにもかかわらず、加速は鋭い(あくまでノーマル比)。

　昨年末に作り、シリンダーの偏摩耗でこの春亡くなったエンジンは圧縮比10.7〜10.8程度に264度のハイカムで、かなりのトルクが出ていた。エンジン積み替えで、さすがにトルクは落ちてしまったけれど、僕の走りではノーマルに毛が生えた程度のエンジンで十分満足。調子よく回っているエンジンがあるのに、わざわざ新しいものを作ることもないな、と感じている。ボアアップして、排気量を上げたところで、パワーは出るに決まっているのだが、１度やったことの繰り返し。新しいチャレンジはほどんどない。

　しかし、パワーを求めていなくても、僕は倒錯した車いじりチューニング野郎(メカヲタクとも言う)なので、車をいじっていたい。そんな思いを胸に秘めつつ、ある日、酔っぱらった勢いで、Yahoo!オークションに出品されていたトヨタAE101の４連スロットルに入札してしまった。その後、落札を知らせるメールが届いてはじめて、入札したことを思い出したぐらい唐突な行為だったのである。

　数日後、大きな段ボール箱に入って４連スロットルが届いた。さっそく取り出して、しげしげと眺める。ロードスターとは違う、サイドフィードのインジェクター。４つのスロットルが並び、その横に付いているのは、スロットルポジションセンサー。スロットル直後のポート内には小さな穴があり、それが細い管でつながって負圧を集めている。この１年あまりの車いじりのキャリアのおかげか、さまざまな配管やセンサー類がだいたいどんな働きをしているのかが、推測できた。そんなことをしているうちに、胸の中にポッと小さな火が付いてしまったのである。その火、いや心の叫びはこんな言葉だった。

　つ、つけてみてえ…。

何の変哲もないこの青い箱がFreedomコンピューター。ノーマルECUとカプラーオンで置き換えが可能。車体側のコネクターとコンピューターと接続するコネクター、ディップスイッチがあるだけのシンプルな外観だ。

　さまざまな情報を聞いているから、ぽんっと付くものではないことは十分承知している。ノーマルのシステムで回したければ、巨大なスロットルを覆い、完全に密閉するインマニのようなものを製作し、エアフロメーターを取り付けることになる。そんなものを作る技術は僕にはなし、もし作ってもらったらとっても高い費用がかかるに決まっている。豪快な吸気音がスポイルされてしまう結果にもなる。

　あきらめるか。しかし、一度付いてしまった火はあっという間に胸の中でメラメラと燃え広がり、制御が効かない。理性すら焼き尽くしたところで、ある可能性を考えてみた。フルコンのFreedomならば、制御が可能なことは知っている。一瞬で頭の中にそろばんが出現し、ぱちぱちと音を立て始める。

　うん、エンジンをもう一度きちっと作る費用とほぼ同じぐらいだ。エンジンを作ることと違い、こちらはまったくの新しいチャレンジである。Freedomを発売しているのは、静岡県の小メーカーであるE&Eシステム。MR2のチューンドエンジンの制御をしたくて、コンピューター技術者であった社長さんが、自分で設計して組み立て、フルコンを作ってしまったのである。１発で動いたというから、すごい技術力だ。その奇跡のようなコンピューターに、Freedomと名付けたのも素晴らしい。

　自由だとか、解放だとか、受け取る意味は人それぞれかもしれないが、とっても夢のある名前だ。ある人は、応用次第でどんな使用のエンジンにも対応できる自由をイメージするかもしれない。ある人は、エアフロからの解放か。Freedom。いい名前だ。数少ないラインナップにロードスターが入っているのもうれしいことである。NA6CE用で、９万円という低い価格設定。使わない手はない気がしてきた。

　さまざまなうわさ話は聞いている。不安定、セッティングが出ない、暴走しているのでは。けれども、Freedom制御で調子の良い車はたくさん見ているので、セッティングが難しいだけだろう、と思う。

　基本的にノーマルのECUはブラックボックス。一般の人が中でどんなことをやっているのかは伺い知ることはできない。いくらROMチューンが可能な情報が提供されているとはいえ、大部分の人は燃料マップと点火マップ、レブリミッターあたりをいじって終わりである。始動直後や加速時の増量補正や、その他細かな制御は依然、ブラックボックス。すべてのことが設定できるフルコンなら、エンジン制御を１から学ぶことが可能だ。

　すべてのことができることは、すなわち、すべてを１からセットしなければならないということだ。膨大な作業と時間が必要なのは、想像に難くない。しかし、一度胸に火が付いてしまうと、とっても大きな困難でも、乗り越えられる気がしてくるのである。甘く見ているのかも知れない。

　一度走り出してしまうと、その後の行動は速い。１週間後にはFreedomスペシャリストである富山の車屋さんを通じて、注文していた。４連スロットル用のファンネルも、注文してしまった。

　理屈じゃないのである。情熱なのだ。