オイルまみれ

腰下を分解する前に、オイルを抜く。畳の部屋でエンジンをばらしたり、加工したりするのは、覚悟が必要だ。

　オイル食いが発生したものの、原因が分からない。バルブステムシールに欠陥があるんだろうと決めつけ、ヘッドをはがしてみてら、シリンダーに大胆な傷が付いていました、などという事態も考えられるので、なかなかばらす気にならない。こうなったらこれまでの計画通り、腰下を作ってしまって、エンジンごと載せ替えるしかあるまい、と開き直って、早速手を付けることにした。

　シリンダーヘッドと違い、シリンダー側はオイルがたまっている部分である。畳の部屋を加工部屋としているので、畳にオイルをこぼしてしまうのは避けたい。大量の新聞紙や段ボールを敷かねばならぬ。

　冷房器具のない我が家。夏の間は午後１０時ぐらいまで入ることすらできないくらいの温度だった。当然、エンジン加工部屋は「開かずの間」となっていた。６月下旬の状態で放置してある。まず、片付けなければならない。

　部屋の中は、シリンダーヘッドやカムカバー、インマニを削った粉が床に堆積した状態。紙ヤスリのカスやら、ボロボロになった新聞紙、布といったものがごちゃごちゃになって落ちている。電気スタンドや工具にもアルミの粉がこびりついている。エンジンを家の中で加工するには、覚悟が必要だ。

ウオーターポンプのASSYはシリンダー前部のカバーのようになっていて、意外と大きい。

　２時間ぐらいかけて、ゴミを追い出し、削り粉を掃除機で吸い、散らばっていた工具を棚に押し込んで、片付けが終わった。新聞紙や段ボールをやたらめったら敷き、部屋の中央に腰下を引きずり出す。商店街の建築現場からもらってきた柱の木っ端２本を置き、その上に腰下を載せ、ドレンボルトを開ける。真っ黒なオイルがどぼどぼ出てきた。しかし、まだ粘度があるので、やはりオーナーはこまめにオイルを換えていたのだろう。腰下の角度をいろいろ変えると、さらにオイルが落ちてくる。しばらく放置する。

　さて、分解である。まずは外装部から。エンジンマウント、タイミングベルトのテンショナー、アイドラー。ウオーターポンプ回りのボルトを外して、意外と大きなウオーターポンプのASSYを外す。しかし、タイミングベルトプーリーのロックボルトが外れない。裏側にフライホイールが付いていれば、そこに回り止めを付けて、何とか外すことができるのだが、フライホイールは外されている状態。ボルトに工具をかけても、クランクがくるくる回ってしまう。

　外れないものは仕方がないので、先にオイルパンを外すことにする。

　腰下をごろごろ転がし、ひっくり返す。しばらく放置していたら、ピストンリングからオイルがしみ出し、派手にオイルが漏れてきた。あわてて新聞紙を敷く。オイルパンにはやたらとボルトが多い。１０数本のボルトを外し、エンジン整備書に指定されている場所にマイナスドライバーを突っ込んでこじり、液体ガスケットでがっちり接着されたオイルパンを切り離す。

　一気にはがそうと力を込めても、なかなか外れない。オイルパンがはがれて、浮き上がっているのに、バネでつながれているように、「ボヨヨン」と宙に浮いている。なんだこれはとすき間からのぞいてみると、オイルパンバッフルがオイルパンに張り付いてはがれないらしい。ゆさゆさ揺すっても、思いっきり引っ張ってもはがれる気配がない。困った。

　整備書やチューニングマニュアルを見たりして、あれこれ３０分ぐらい悩んだ。すき間をのぞき込んでみると、バッフルがただオイルパンに張り付いているだけのようだったので強硬手段にでる。大型のカッターナイフをオイルパンとバッフルの間に当て、プラスチックハンマーでたたく。カンカンとたたいているうちに、すき間に刃が食い込んでいった。左右の数カ所にカッターナイフを打ち込んで、ようやくオイルパンとバッフルを接着している物体を切り離すことができた。オイルパンバッフルはオイルストレーナーごと取り外した。こんなところで悩むとは。

フライホイールで回り止めができなかったので、クランクにハンマーの柄を突っ込んた。柄がぼろぼろ。

　さて、さっき外すことができなかったロックボルトを外さねばならない。ここは締め付けの規定トルクが11〜12kgf。エンジンの中でも一番固く締まっているボルトなので、外すには気合がいる。他の人のホームページでも、ここを外すのが大変だった、という記述がたくさんある。

　まず、クランクの回り止めをしなくてはならない。付けるフライホイールがないのでクランクにプラスチックハンマーの柄を差し込んだ。かなり強引である。でも、これで絶対クランクは回らない。

　固いボルトを外す奥の手は、愛用の７５センチブレーカーバーである。ドライブシャフトのボルトさえ外せるこのブレーカーバーで外せないわけがないのである。

　が、力を入れると、腰下がごろごろ転がってしまう。転がると、どこに入っていたのか、中から真っ黒なオイルが漏れてきて飛び散る。腰下を誰かに支えてもらえば外れるかも知れないが、支えた人間ごと回ってしまう可能性もある。何回か揺すってみるけれども、ボルトはびくともしない。プラスチックハンマーの柄にコンロッド大端部が食い込む。困った。

　こんな場合は、打撃のようなトルクを与えるしかない。ブレーカーバーを水平の位置にセットし、深呼吸して、ふん、と床にたたきつけるようにする。２、３回か試していたら、カキンという音とともにボルトがゆるんだ。成功である。しかし、プラスチックハンマーの柄は無惨にもぼろぼろになってしまった。他のハンマーでたたいて表面を整える。

　オイルポンプと、リヤカバーを外して、ようやくクランクに進むことができるようになった。格闘の末、辺りはオイルまみれである。